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しつけ

【獣医師監修】赤ちゃんや妊婦さんが猫と一緒に暮らす時に注意しておきたいこととは?

2021.7.19
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猫を飼っていた家庭で、飼い主が妊娠・出産をすると、飼い主の赤ちゃんと猫が共に暮らす生活が始まります。そこで気を付けたいのが、赤ちゃんと猫との関係の築き方です。今回は、赤ちゃんと猫が同居する場合の注意点や注意すべき感染症のことについて解説します。

監修者:村田 貴輝

日本獣医生命科学大学 獣医学部卒業。動物病院で臨床を経験後、アイシア株式会社入社。
<資格>獣医師、ペット栄養管理士、ペットフード安全管理者

INDEX

新しい家族を迎える前にまずは猫の健康管理

赤ちゃんと一緒に暮らす時、もしも猫が病気を持っているとうつしてしまう可能性があります。赤ちゃんが生まれる前からしっかり病院で検査と治療をして、猫を健康な状態に保ちましょう。

猫と人に共通する感染症と治療・予防法

  1. 猫の感染症について

    猫に感染する病原体には、猫だけに感染するものと人にもうつるものがあります。
    人にもうつるもの(人獣共通感染症)の一例として次の感染症が挙げられます。

      人の症状※1 猫の症状 備考
    重症熱性血小板減少症候群 発熱、全身倦怠感、消化器症状など 発熱、食欲不振など 屋内猫から人の感染例なし※2
    ネコひっかき病 発熱、リンパ節腫脹、食欲不振など 通常は無症状 飼育猫も保菌している可能性あり
    コリネバクテリウム
    ・ウルセランス感染症
    ジフテリアと類似した臨床症状 くしゃみ、鼻水、眼脂、皮膚疾患など 人の場合、ワクチンに予防効果あり
    皮膚糸状菌症 発赤、痒みなど 脱毛、痒みなど 健康な猫は自然に治癒する

    ※1:人の症状で気になる場合は医師や専門家の方々に確認をしてください。
    ※2:厚生労働省ホームページ 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A(第6版 令和2年7月21日作成)

    新型コロナウイルス感染症については厚生労働省や日本獣医師会の最新情報をご確認ください。

  2. 治療・予防法

    これらの感染症についての猫の治療方法や予防方法は次のとおりです。

    重症熱性血小板減少症候群(SFTS) 2011年に人の新しい感染症として報告されていましたが、2017年に初めて猫の感染が明らかになり、問題になっています。猫の感染が明らかになった場合は入院措置を取ります。残念ながら猫の致命率(感染猫の亡くなる割合)は60-70%と非常に高いため、予防が必須です。SFTSは猫同士の濃厚接触やマダニによる吸血によって感染すると考えられています。マダニの対策を実施し、さらに猫を屋外に出さないことが予防方法となっています。
    ネコひっかき病 ノミが原因菌を媒介するので、ノミの駆除が一番の予防となっています。また、野良猫との喧嘩も感染する要因になるので接触しないようにしてください。
    コリネバクテリウム・ウルセランス感染症 猫が感染したら、2週間程度入院して投薬を続けます。治療後の再検査で菌が検出されなければ人や他の動物に感染しないと考えられています。
    皮膚糸状菌症 猫カビと呼ばれることもあるようですが、猫だけでなく人にも感染します。赤ちゃんや他の人にうつらないようにするためにも適切な治療が必要です。病変部もしくは全身を毛刈りし、専用のシャンプーを週2回程度実施します。内服薬は副作用が発現することがあるので、使用には注意を要します。

ノミとマダニの対策

ノミやマダニは赤ちゃんや飼い主に病気を媒介することがあります。猫のノミとマダニ対策としては駆除薬が効果的です。形状には口から投与する錠剤、体に滴下するスポットオン、全身に噴霧するスプレー、注射薬など、複数の種類があります。また、各製品で有効成分や対応している寄生虫が異なるので、飼育環境や猫との相性で使い分けることができます。

「外に猫を出していないから大丈夫」「寒い時期は関係ない」と思われがちですが、空調が整った人間の居住空間はノミにとって格好の棲み処です。地域や環境で異なりますが、基本的には1年を通して対策をしましょう。ノミの幼虫は床のフケなどを食べて育つので、猫の寝床やカーペットを含む室内の掃除も対策として有効です。
マダニは基本的に屋外にいます。猫を外に出すとノミやマダニに刺される可能性があるので、繰り返しにはなりますが、猫を家から出さないようにしましょう。

猫と妊婦さんが同居する時はトキソプラズマ症に注意

猫との生活では、赤ちゃんを出産する前(妊娠中)にも気を付けたい病気「トキソプラズマ症」があります。妊娠中に初めて「トキソプラズマ」に感染してしまうと、胎児に悪影響を及ぼす可能性があります。

トキソプラズマ症とは?

妊娠されている飼い主さんは産科でトキソプラズマ症という言葉を聞いたことがあるかもしれません。トキソプラズマ症とは、トキソプラズマという寄生虫により引き起こされる病気で、健康な人が感染しても通常無症状~軽症となるので大きな問題にはなりませんが、妊婦さんがトキソプラズマに感染した場合、お腹の中の赤ちゃんも感染し、流産になってしまったり、赤ちゃんが水頭症や精神運動障害などを患ってしまったりする可能性があります。

トキソプラズマは感染した動物の筋肉内や土の中に存在するため、肉を生で食べたり、素手でガーデニングをしたりすることが主な感染経路となります。猫の場合は屋外のネズミや虫、あるいは生肉を食べることが感染原因だと考えられています。猫が感染すると便の中にオーシストという卵のようなものを数日から十数日程度にわたって排泄します。人がこのオーシストを口にすると感染する可能性があります。

産科では、肉はよく火を通す、手洗いをするなどの一般的な衛生管理を行うよう指導があると思います。猫の感染を防止するために、決して外に出さず、与えるフードは加熱済みのものにしましょう。猫のトイレ掃除はほかの家族にしてもらうという対策もあります。

ただし、確率的には非常に稀とされる病気であり、衛生対策をしっかりしていれば過剰に不安になる必要はありません。どうしても心配な方も、勢いで猫を手放したりせず、まずは産科や動物病院とよく話し合いましょう。

※上記、「トキソプラズマ症」の内容については、猫だけではなく妊婦さんと赤ちゃんの健康にも関係することから、医師も内容の確認を行っています。

新しい家族が増える!猫のために気を付けたいことは?

飼い主が赤ちゃんを出産すると、猫との生活が始まります。”新しい生活”を始める際に、猫に配慮したいことを解説します。

赤ちゃんとの同居による猫のストレス対策

猫の祖先は自然界で単独生活をしていたといわれています。ながい時を経て、人に慣れ、一緒に生活できるようになりました。しかし猫が人と慣れているとはいっても、猫と人では音や臭いなどの感覚が異なり、人が気に留めないようなものに強い警戒心を抱くことがあります。家族が増えるなどの環境変化があると慣れるまではストレスを感じてしまいます。飼い主の赤ちゃんとの暮らしが始まる際は、猫の感じるストレスが軽減できるよう、次の3つのポイントに注意しましょう。

  1. 猫だけで過ごせるスペースを設ける

    猫が赤ちゃんと適度に距離を置くことができ、くつろげるスペースを設けましょう。赤ちゃんがいる時に限らず、猫にとってはひとりで落ち着ける空間も大切。特に赤ちゃんがいると、泣き声や大人たちの大きな声で家の中が騒がしくなりがちです。猫が赤ちゃんと適度に距離を置くことができ、くつろげるスペースを設けましょう。

  2. トイレは静かな場所に設置する

    猫は大きな音が苦手なので、赤ちゃんの泣き声があまり届かないところにトイレを設けると排泄に集中できるでしょう。トイレの場所を移動することが猫の負担になることもあるので、赤ちゃんが入れないようにベビーゲートなど設置するのもよいでしょう。床より少し高い位置に置くことで、猫はゲートの下から入ることができます。また、排泄物は猫の体調を知ることができるバロメーターです。掃除の度に排泄物に異変がないかチェックすることも大切です。

  3. 毎日短時間でも遊ぶ時間を設ける

    猫にとっての遊びは、ストレスを発散するだけのものではなく、飼い主との大切なコミュニケーションの役割も果たしています。猫に「飼い主さんが構ってくれなくなった…」と思われないよう、育児の合間に意識的に、1日何回か遊ぶ時間を作ってあげるとよいでしょう。


猫が赤ちゃんと仲良くなる4つの方法

警戒心の強い猫と予想外の行動をする赤ちゃん。猫と赤ちゃんの対面は、順を追って慎重に距離を縮めていきましょう。仲良くなるための4つの方法を次に紹介します。猫と赤ちゃんのペースを見ながら実践してみてください。

  1. キャットタワーを置く

    赤ちゃんの部屋などにキャットタワーやキャットウォークを置いてあげることで、猫も安全な位置から赤ちゃんを観察できることができます。

  2. 赤ちゃんの声に慣れさせる

    赤ちゃんの泣き声は猫が今まで聞いたことのない新しい音です。
    赤ちゃんが生まれる前から、インターネットなど利用して赤ちゃんの泣き声や笑い声を聞かせ、少しずつ慣れさせるとよいでしょう。

  3. 同じ空間で過ごす

    同じ空間で食事の時間を共有することで距離が縮まることがあるようです。赤ちゃんのミルクの時に、猫も同じ部屋でごはんを与えてみましょう。

  4. ふれあいは、大人の見守る中で

    同じ空間にいることにお互いが慣れたら、赤ちゃんと猫が落ち着いている時を見て、赤ちゃんを猫に近づけてみましょう。大丈夫そうであれば、大人が手を添えながら優しく触れさせてみます。そうすることで赤ちゃんが毛を引っ張ったりすることを避けられるでしょう。

猫が赤ちゃんの予期せぬ行動に驚いて、身を守るために引っ掻いたりしてしまう可能性もありますので、赤ちゃんに猫とのふれあい方を教えられる時期になるまでは、必ず大人が見守りながら行いましょう。

赤ちゃんが猫と同居する時に気を付けたいこと

お互いの存在を認めて、赤ちゃんと猫が同居する生活が始まりました。猫と一緒に暮らす生活においての注意点を紹介します。

赤ちゃんと猫の生活、衛生面での注意点

赤ちゃんの免疫力はまだ十分ではないため、猫の持つ病原体には注意する必要があります。対策として以下の衛生管理を行うとよいでしょう。

  1. 猫の爪を切る

    猫の爪は鋭く、爪切りなどのケアをしなかった場合、じゃれついただけでもひっかき傷となってしまします。傷だけでなく、感染症の一つ『ネコひっかき病』にかかるリスクもあります。短く爪を切るのが難しい場合は、先の尖った先端1~2mm部分だけでも大丈夫です。これまで以上に頻繁に伸び具合をチェックするようにしましょう。

  2. 掃除や猫用グッズのお手入れをこまめに行う

    猫の抜け毛(フケ)やダニが赤ちゃんのアレルゲンとなることがあります。また、過去に皮膚糸状菌症に感染した猫の場合は、抜け毛に糸状菌(皮膚糸状菌症の原因となるカビの仲間)が残っている可能性があります。ノミは猫の寝床にいることがあるので、その除去も大切です。掃除機をかけることはもちろん、猫の使うベッドなどもこまめに洗うよう心がけましょう。

  3. 食器は使い分けを徹底する

    食器に付いた猫の唾液を介して、赤ちゃんが感染症を起こす危険もあります。猫のごはんの器は、使用後すぐに片づけるようにしましょう。食器はそれぞれ別のものを使うことはもちろん、食器を洗うスポンジも赤ちゃん用、猫用と使い分けるようにしましょう。

  4. 噛まれたり引っ掻かれたりしたら病院へ受診する

    猫が健康であってもパスツレラ菌や黄色ブドウ球菌など常在している菌があります。もしも猫に噛まれたり、引っ掻かれたりした場合は感染を防止するためすぐに患部を十分に洗い、病院に行きましょう。


赤ちゃんも発症する!?猫アレルギー対策

咳や痒みなど、猫アレルギーは赤ちゃんも発症する可能性があります。猫アレルギーは猫のフケや唾液がアレルゲンとされているため、以下のような対策を行うとよいでしょう。

  • 赤ちゃんの寝室に猫を入れない

  • 掃除機をかける

  • 猫の毛布、カーテンやシーツなどの布類を洗濯する

  • 空気清浄機を設置する

  • 猫のブラッシングを行う
    (猫の皮膚が傷つかないよう、優しく行いましょう)

  • 猫のシャンプーをする
    (基本的に猫は水に濡れることが嫌いなため、無理はしないようにしましょう)

アレルギーになりやすい人は複数のアレルゲンに対してアレルギーを発症しやすいといわれていますので、ダニなど、猫のフケ以外のアレルゲンを取り除く意味でも、掃除はこまめにしましょう。当然のことではありますが、もしも赤ちゃんのアレルギーが疑われる場合には、必ず病院で診察を受け、猫アレルギーの場合はしっかりと医師と相談してください。

病気など気にすることはたくさんありますが、基本的な衛生管理をしていれば過度の心配はしなくて問題ありません。猫と赤ちゃんが仲良くする様子はとても微笑ましいものです。それだけでなく、子供が動物と一緒に育つと自己肯定感が高く、より社会的適正のある大人に成長するということが明らかになっています。問題が起こらないよう注意しながら猫との楽しい生活を過ごしてください。

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