【獣医師監修】猫の腸内環境を整えるには?腸活のポイントや注意点を徹底ガイド

猫の腸内環境を整える「腸活」は、下痢や便秘の予防、免疫力の向上など、愛猫の健康維持に欠かせません。
「最近おなかの調子が良くない」「便秘や下痢を繰り返している」そんなお悩みはありませんか?それは腸内環境の乱れが原因かもしれません。
この記事では、猫の腸内環境の基礎知識から、日常でできる腸活の実践方法、腸内環境を整えるフードの選び方まで、詳しく解説します。今日から始められる腸活で、愛猫の健康をサポートしましょう。
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監修者:姫田 夏子
大阪府立大学(現 大阪公立大学)生命環境科学域獣医学類卒業。
〈資格〉獣医師
日本獣医動物行動研究会所属、東京農工大学動物医療センター動物行動科研修医
動物病院で犬猫の診療に従事後、アイシア株式会社に入社。
- INDEX
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- 猫の下痢や便秘の症状・原因と対処法
- 猫の腸内環境の状態を確認する方法
- 猫の下痢や便秘の症状・原因
- 家庭での注意点と腸活の重要性
- 猫の腸内環境を良くする成分の性質と働き
- 腸内フローラの基本構造と役割
- 腸内善玉菌と免疫力の関係性
- プロバイオティクス成分について
- プレバイオティクス成分の基礎知識
- バイオジェニックス成分の基礎知識
- 食物繊維の基礎知識
- 猫の腸内環境サポート食品の基礎知識
- 猫の腸内環境サポート総合栄養食フードの選び方
- 猫のフード切り替えの注意点
- 年齢別の腸活のポイント
- 子猫期(生後12ヶ月まで)
- シニア期(7歳以降)
- バランスのよい食事を与えるには?
- ストレスにならない生活環境づくり
- まとめ
猫の下痢や便秘の症状・原因と対処法

猫の排便トラブルは、飼い主さんが最も気づきやすい健康上の問題のひとつです。下痢や便秘は腸内環境の乱れによって起こる代表的な症状で、放置すると猫の健康に深刻な影響を及ぼすことがあります。
猫の腸内環境の状態を確認する方法
腸活を始める第一歩は、愛猫の腸内環境がどのような状態かを知ることです。最も簡単で確実な方法は、毎日の便の観察です。健康な便は「バナナ状」と表現され、適度な硬さと艶があり、手で持ち上げても形が崩れません。色は茶色から濃い茶色で、強い臭いはしません。
形状 | バナナ状 |
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硬さ | コロコロでもベチャベチャでもなく、適度な柔らかさ。手で持ち上げても崩れず、排泄した場所に便が付着していない。 |
回数 | 1日1~2回が理想的(個体差あり) |
色 | 茶色~濃い茶色 |
臭い | あまり強くない程度 |
その他 | 血液や粘液が混じっていないか |
トイレ掃除の際には、これらのポイントを日常的にチェックする習慣をつけましょう。変化に早く気づくことで、腸内環境の乱れを早期に発見できます。
猫の下痢や便秘の症状・原因
腸内環境の乱れは、さまざまな形で猫の体に現れます。最もわかりやすいのが、下痢や便秘などの排便トラブルです。また、便臭や口臭がきつくなるのも腸内環境の悪化を示すサインのひとつです。
下痢や便秘は腸内環境の乱れによっても起こる代表的な症状です。また、放置すると猫の健康に深刻な影響を及ぼすことがあります。以下に、下痢と便秘それぞれの症状と原因をまとめました。
種別 | 症状 | 原因 |
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下痢 |
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便秘 |
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一概に便秘や下痢といっても、上記のような寄生虫がいるなどの感染症によるケースから、腫瘍などにいたるまでさまざまな病気が潜んでいることも考えられます。特に以下のような症状が見られる場合は緊急性が高いため、すぐに動物病院を受診してください。
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至急受診が必要な症状
- 血便や真っ黒な便(タール便)が出ている
- 下痢や便秘が3日以上続いている
- 食欲がまったくない、または元気がない、動きたがらない
- 嘔吐を繰り返している
- 体重が急激に減少している
- おなかを触ると痛がる、またはうずくまって動かない
- 脱水症状(皮膚の弾力がない、歯茎が乾いている)が見られる
子猫やシニア猫の場合は、成猫よりも体力が少ないため、症状が軽くても早めの受診を心がけましょう。「様子を見ていたら悪化してしまった」ということがないよう、迷った場合は獣医師に相談することが大切です。
家庭での注意点と腸活の重要性
軽度の症状であれば、水分補給を心がけたり、消化の良いフードに切り替えたりすることで改善することもあります。ただし、人間用の下痢止めや便秘薬を与えるのは絶対に避けてください。症状が改善しない場合は、必ず動物病院を受診しましょう。
下痢や便秘は繰り返しやすい症状のため、日頃から腸内環境を整える「腸活」によって予防することが大切です。腸内環境が整っていれば、ストレスや食事の変化があっても排便のトラブルが起こりにくくなることが期待できます。
猫の腸内環境を良くする成分の性質と働き

腸内環境を良くするには、腸内フローラを整えるためのプレバイオティクスやプロバイオティクス、またバイオジェニックスなども有効とされています。便の通りを良くし毛玉の排泄を促す不溶性食物繊維や水溶性食物繊維も重要です。最近では、これらの成分を配合したキャットフードも多く見られるようになりました。まずは、それぞれの成分の性質や働きを詳しくご紹介します。
腸内フローラの基本構造と役割
猫の腸内にはさまざまな細菌が生息しており、「腸内フローラ」と呼ばれています。腸内細菌は、体に良い働きをする「善玉菌」、悪影響を及ぼす可能性がある「悪玉菌」、どちらにも属さない「日和見菌(ひよりみきん)」の3つに分類されます。
善玉菌が多いと消化吸収や腸内環境の維持に役立ちますが、いわゆるウェルシュ菌と呼ばれる悪玉菌が増えすぎると健康へのリスクが高まります。また、日和見菌は優勢な菌と同じような働きをします。健康な猫では、善玉菌と悪玉菌がバランスよく共存していることが重要です。
腸内善玉菌と免疫力の関係性
動物の腸管には、体内で最も多くの免疫細胞が集まっており、腸管は、食事とともに体内に入る細菌やウイルスなどの異物から体を守る、免疫の最前線として重要な役割を担っています。
腸内環境を整えることは、この免疫細胞の活性化にもつながります。善玉菌が優勢な環境では、腸の粘膜が健康に保たれ免疫細胞も正常に働くため、感染症などの病気に対する抵抗力が高まると考えられます。
プロバイオティクス成分について
プロバイオティクスとは、「生きたまま腸に届き、健康に良い影響を与える微生物」のことを指します。簡単に言うと、腸内環境を整える働きがある「生きた善玉菌」のことです。
プロバイオティクスに含まれる代表的な菌には、乳酸菌やビフィズス菌があります。これらの菌は腸内で乳酸や酢酸などの短鎖脂肪酸を作り出しエネルギー源として利用(発酵)することで、腸内を弱酸性に保ち、悪玉菌を増えにくくさせる環境を作ります。また、腸の粘膜を保護したり、免疫機能をサポートしたりする働きもあります。
プレバイオティクス成分の基礎知識
プレバイオティクスは、プロバイオティクスとは異なり、「善玉菌のエサ」となる成分です。腸内の善玉菌の増殖を助け、増えた善玉菌は、先述のプロバイオティクス効果の働きをします。
代表的なプレバイオティクスには、オリゴ糖や水溶性食物繊維などがあります。オリゴ糖は、善玉菌を分解・利用することで悪玉菌を増えにくくさせます。また、オリゴ糖にはガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳糖果糖オリゴ糖(ラクトスクロース)などたくさんの種類があり、それぞれ異なる善玉菌を増やす働きがあります。
水溶性食物繊維は、ペクチンやイヌリンなどが代表的で、水に溶けてゲル状になり、腸内をゆっくりと移動します。その過程で善玉菌のエサとなり、腸内環境を整えます。また、便の水分量を調整し、排便をスムーズにする効果も期待できます。
バイオジェニックス成分の基礎知識
最近では、生きた菌(生菌)だけでなく加熱処理された「死菌」にも健康効果があることがわかってきました。死菌は生菌と比べて保存性に優れ、品質が安定しているという利点や、バイオジェニックスとしての効果があります。
バイオジェニックスは腸内細菌を介することなく、身体に直接良い影響をもたらす成分の総称です。
代表的なバイオジェニックス成分には、死菌以外には、乳酸菌生産物質や、DHA、EPA、ビタミンなどがあります。バイオジェニックスは腸内環境の改善だけでなく、免疫調整や抗酸化作用など、体全体の健康維持に役立つとされています。生きた菌ではないため、胃酸の影響を受けにくく腸まで届くという利点があります。
最近では、これら3つの要素(プロバイオティクス、プレバイオティクス、バイオジェニックス)を組み合わせることで、より効果的な腸活ができると考えられています。
食物繊維の基礎知識
食物繊維には、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維のふたつの種類があります。
不溶性食物繊維は便のかさまし効果や腸管の刺激で、便が出るように働きかける作用があります。水溶性食物繊維は便に水分を含ませ、腸管内をスムーズに動くよう働きかける作用があります。プレバイオティクス成分としても知られています。
また、食物繊維は、猫がグルーミングなどで舐めとった毛をからめて便と一緒に排出させる効果もあります。このことで、毛玉の吐き戻し防止にも期待ができます。
猫の腸内環境サポート食品の基礎知識
市販されている腸内環境サポート商品には、主に「サプリメント」「機能性総合栄養食」「おやつタイプ」の3種類があります。
サプリメントは、フードに足りない成分を補うのに役立ちます。フードにかけたり混ぜたりして与えるといいでしょう。
機能性総合栄養食は、腸内環境に配慮した成分が配合された総合栄養食で、毎日の主食として与えることができます。
おやつタイプは嗜好性が高く、腸活を楽しく続けられるような工夫がされています。
成分表示を見る際は、「オリゴ糖」「水溶性食物繊維」「乳酸菌」「ビフィズス菌」「セルロースなどの不溶性食物繊維」などの表記に注目しましょう。これらは腸内環境をサポートする代表的な成分です。ただし、含有量や配合バランスも重要で、少なすぎると効果が認められなかったりしますが、多すぎてもお腹がゆるくなってしまったり、便秘気味になってしまったりすることもあります。配合バランスはたとえば「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維+オリゴ糖」の比率は「4:1」程度がいいとされています。わからないことがあれば、獣医師に相談することをおすすめします。
猫の腸内環境サポート総合栄養食フードの選び方
毎日与えるフードとしてはまず「総合栄養食」の表示があることを確認しましょう。総合栄養食は、フードと水のみで栄養が担保されるもので、猫に必要な栄養素がバランスよく配合されています。
フード選びのチェックポイント
原材料表示を確認する
・第一原材料が良質なタンパク質(鶏肉、魚など)であること
・消化しやすい原材料が使用されていればそれが明記されていること腸活成分が配合されているか確認する
・「オリゴ糖」「水溶性食物繊維」などのプレバイオティクス
・「乳酸菌」「ビフィズス菌」などのプロバイオティクス
・「不溶性食物繊維」年齢・体調に合わせた選択をする
・子猫用、成猫用、シニア用など、ライフステージに合ったもの
・腸内環境ケアなどの機能性表示があるもの
新しいフードを試す際は、まずは少量パックから始め、便の状態を観察しながら、愛猫に合ったものを見つけましょう。また、どれほど良質なフードであっても、猫が食べてくれなければ意味がありません。嗜好性も重視し、愛猫が喜んで食べるものの中から、腸活に適したフードを選ぶことが大切です。 選び方に迷った場合は、かかりつけの動物病院に相談することをおすすめします。
猫のフード切り替えの注意点
腸活を始める際に最も大切なのは、「急激なフードの切り替えを避ける」ことです。猫の腸内環境はデリケートで、フードをいきなり変えたり、サプリメントを急に多く与えたりすると、下痢や嘔吐を起こすことがあります。新しいフードやサプリメントを取り入れるときは、必ず少量から始め6~7日かけて徐々に新しいフードの割合を増やしていきます。最初は従来のフードを7~8割、新しいフードを2~3割にして始め、毎日少しずつ新しいフードの割合を増やすことで、腸への負担を軽減できます。
「体に良い」とされる栄養素でも、過剰摂取は禁物です。例えば、食物繊維は適量なら腸の動きを助けますが、摂りすぎると下痢や栄養吸収の妨げになります。パッケージに記載されている給与量を守り、「もっと効果を出したいから」と自己判断で量を増やさないようにしましょう。
アレルギーにも注意が必要です。腸活フードに含まれる新しい原材料が、アレルギー反応を引き起こすことがあります。皮膚のかゆみや脱毛、下痢、嘔吐などの症状が出た場合は、すぐに使用をやめましょう。特に、過去にアレルギー歴がある猫は、成分表示をよく確認してから与えることが大切です。また、持病がある猫や投薬中の猫は、腸内環境の変化が薬の吸収や効果に影響する場合があるため、腸活を始める前に必ず獣医師に相談しましょう。
年齢別の腸活のポイント
子猫期(生後12ヶ月まで)
子猫の腸はまだ未成熟で、消化管の機能が発達途中のため、消化不良で下痢をすることが多いです。たとえば、離乳期の場合は一度ミルクに戻したり、フードの量を減らしたりして回数を増やし、消化管への負担を減らしましょう。
また、急激な食事変更は特に避けなければなりません。母乳から離乳食、離乳食から子猫用フードへの切り替えはゆっくりと行いましょう。
基本的には、子猫用の総合栄養食をしっかり食べていれば、追加のサプリメントなどは必要ありません。下痢の症状が続くなど子猫の状態に違和感を感じたら、サプリメントなどを使用する前にいちど動物病院に連れていきましょう。
水分補給も重要です。子猫は脱水状態になりやすいため、いつでも新鮮な水が飲める環境を整え、ウェットフードも積極的に取り入れましょう。
シニア期(7歳以降)
高齢になると、腸の動きが鈍くなったり、善玉菌が減少しやすくなったりします。また、徐々に消化能力も低下してくるため、消化しやすいフードを選ぶことが大切です。
歯の問題などで硬いドライフードが食べづらくなった場合は、ぬるま湯でふやかしたり、ウェットフードの割合を増やしたりして対応します。ステージに応じたフードもあるので、活用を検討しましょう。
便秘になりやすいのも高齢になった猫の特徴です。水分摂取を促すため、いつものドライフードにウェットフードやスープを加えたり、水飲み場を増やしたりする工夫が必要です。適度な運動も腸の動きを助けるので、猫の体力に合わせて、無理のない範囲で遊ぶ時間を設けましょう。
定期的な健康チェックも欠かせません。シニア期はさまざまな病気のリスクが高まるため、年に2回程度は動物病院で健康診断を受け、腸内環境も含めた総合的な健康管理を心がけましょう。
バランスのよい食事を与えるには?
腸活において、食事管理は最も重要な要素のひとつです。
食事を与える回数は成猫で1日2~3回が目安で、できれば決まった時間に与えると猫の生活リズムが整い、健康管理もしやすくなります。ただし、猫はもともと狩りをしていた生き物なので、1日8~10回くらいに小分けで食事をしていました。そのため、少量頻回のほうが合っていればそれで問題ありません。量は、フードのパッケージに記載された給与量を目安に、猫の体重や活動量に応じて調整しましょう。
腸内環境を整えるためには、適度な食物繊維が含まれる食材を取り入れることが大切です。
猫草などを与えるのもいいでしょう。ただし、タマネギやニラなどのネギ類など、猫に与えてはいけない食材もあるので、以下も参考にしてください。
ストレスにならない生活環境づくり

猫のストレスも腸内環境に影響を与えます。ストレスを感じると、腸の動きが乱れ、悪玉菌が増えやすくなってしまいます。愛猫の性格に合わせた環境づくりが、腸活の成功には欠かせません。
運動不足は腸の動きを鈍らせるため、1日15~30分程度の遊び時間を確保しましょう。猫じゃらしや知育トイなどで遊ぶことで、無理なく運動量が増え、腸の働きも活発になります。
おなかのマッサージも効果的です。猫がリラックスしているときに、おなかを時計回りに優しくなでてあげましょう。ただし、嫌がる場合は無理強いせず、猫のペースに合わせることが大切です。
トイレ環境も重要なポイントです。トイレは必ず常に清潔に保つようにしましょう。また、トイレの好みには個体差もありますが
飼育している猫の頭数よりひとつ多くトイレを設置する
トイレはカバー無しで、猫の頭からお尻の長さの1.5倍以上のサイズを目安に
食事場所や人通りの多い場所から離して設置する
洗剤は柑橘系の香りを避け、お湯で洗う・天日干し・アルコール消毒を検討する
砂粒は細かく、砂の量は薄めに敷く
などもポイントです。気に入らないトイレはストレスの原因となり、排便を我慢してしまうこともあります。
腸活は、継続することで少しずつ効果が現れてきます。急激な変化を求めず、愛猫のペースに合わせて少しずつ取り入れていきましょう。効果が見られない場合や、不安な点がある場合は、かかりつけの獣医師と相談しながら進めることをおすすめします。
まとめ
猫の腸内環境は、健康全体に大きな影響を与えます。また、腸内フローラのバランスが崩れると、下痢や便秘、食欲不振など、さまざまな不調につながるため、日頃から腸活を意識することが大切です。 腸内環境を整えるためにできることには、毎日の便の観察やバランスの取れた食事、適度な水分補給、ストレスの少ない環境づくりなど、日常生活の中で実践できることが多くあります。店頭で腸活や腸内環境ケアを謳っているフードを活用するのも効果的です。
また、水分補給も腸活には欠かせません。新鮮な水を複数箇所に置き、いつでも飲める環境を整えておきましょう。ドライフードが主食の場合は、ウェットフードも取り入れたり、フードにぬるま湯を加えたりして水分摂取を促すと効率よく水分を摂ることができます。
ただし、急激な変化は避け、愛猫の年齢や体調に合わせて少しずつ進めることが大切です。不安なことがあれば獣医師に相談しながら、愛猫にとって最適な腸活の方法を見つけていきましょう。継続的な腸活が、愛猫の健康寿命を延ばす第一歩となります。